主な対応疾患・治療
呼吸器感染症内科では、呼吸に関連する気管支や肺の病気を診察しています。
急性期から慢性期まであらゆる呼吸器疾患に対しての幅広い診断と治療を行なっております。
◎気管支喘息
喘息の特徴
気管支喘息(以下、喘息)は、気道に慢性的な炎症が起こる病気です。この炎症によって気道が狭くなり、咳、喘鳴(ヒューヒュー、ゼーゼーという音)、息切れ、胸の圧迫感といった症状が発生します。特に、夜間や早朝に症状が悪化しやすく、アレルゲン(ダニ、花粉、ハウスダストなど)、運動、冷たい空気、ストレスなどの刺激によって発作が誘発されることがあります。
喘息は慢性の疾患であり、適切な管理が必要ですが、適切な治療を受けることで日常生活を問題なく過ごせるようになります。当院では、一般的な吸入薬を使用しても喘息が良くならない患者さんも多く受診され、精密検査や治療を行っています。まずは、喘息の診断が正しいかどうかを検査したり、他の合併症の確認、生活習慣の見直し、生物学的製剤などの新しい治療薬を検討するなど総合的な介入を行います。
喘息の疫学
喘息は日本だけでなく世界的に多くの人々が罹患している病気です。日本における喘息の有病率は成人で約6~10%、小児では約10~15%とされています。特に小児期に多く発症し、成長とともに改善するケースもありますが、大人になってから発症するケース(成人発症喘息)も増加しています。
また、日本における喘息の死亡者数は減少傾向にあるものの、2021年には約1,000人が死亡しています。適切な治療と発作時の迅速な対応が求められます。
喘息の検査
発作性、変動性のある症状があるかどうか、アレルギー歴や喘息の既往歴や家族歴があるかなどの問診に加え、診察で気道狭窄音の確認、血液検査でアレルギーの数値(好酸球数やIgE値)を確認、肺機能検査や呼気NO検査、必要に応じて気道可逆性テストやメサコリン負荷試験などを行います。
喘息の治療
喘息は完治することが難しい疾患ですが、適切な治療によって症状をコントロールできます。治療の基本は吸入薬の使用であり、症状の頻度や重症度に応じて適切な薬が処方されます。
①長期管理薬(吸入薬)
・吸入ステロイド薬(ICS):気道の炎症を抑える最も重要な薬です。
・長時間作用性β2刺激薬(LABA):気管支を拡張し、呼吸を楽にする薬。
通常、吸入ステロイドと併用されます。
②発作時の薬
・時間作用性β2刺激薬(SABA):発作時に気道を広げるために使用します。
・点滴ステロイド薬:重度の発作時に使用されることがあります。
③生物学的製剤
重症喘息の患者に対して用いられる新しい治療法で、症状を大幅に軽減する可能性があります。
④生活習慣の改善
・禁煙を徹底する(受動喫煙も避ける)
・アレルゲン(ダニ、カビ、花粉)の除去
・定期的な運動(肥満も喘息の原因になります)
・ストレス管理(ストレスも喘息発作の誘因になります)
喘息に関するQ&A
喘息は治りますか?
完全に治ることは難しいですが、適切な治療を続けることで症状をコントロールし、発作を防ぐことができます。
ステロイド薬は長期間使っても大丈夫?
吸入ステロイド薬は長期間使用しても副作用が少なく、安全性が高いとされています。
喘息発作が起きたらどうすればいいですか?
まずは 短時間作用性β2刺激薬(SABA)を吸入してください。
それでも症状が改善しない場合や、息苦しさが強い場合は 速やかに医療機関を受診してください。
◎肺癌
肺癌の特徴
肺癌による症状としては咳や痰、胸痛、息切れ、発熱が出ることもありますが、進行するまで症状が出ないことも多いです。骨や脳に転移することもあり、その場合は痛みや骨折、腕や足の脱力や視野障害などが出ることもあります。
肺癌の疫学
日本人のがん死因の第一位であり、年間7万人以上が肺癌でなくなっています。喫煙や職業、環境(石綿、ラドン、ヒ素、クロム、PM2.5などの曝露)との関連が指摘されており、間質性肺炎やCOPDを持っている人も罹患しやすいです。
肺癌の検査
肺癌は早期では症状がないことが多く、定期健診のレントゲン写真で偶然発見されることもあります。 腫瘍マーカーとしてCEA、シフラ、Pro-GRP、NSEなどがあり、治療前からこれらが上昇している場合は治療効果の判定や再発の予測に役立てることができますが、これらが上昇しない肺癌もあります。 肺癌の診断をつけるには、病変のある場所から組織を採取して顕微鏡で確認する検査(病理検査)が必要であり、気管支鏡検査で肺組織を採取したり、頚部リンパ節や骨など他の臓器に転移している場合はその臓器から組織を採取して病理検査を行うこともあります。
肺癌の治療
肺癌には小細胞肺癌と非小細胞肺癌の2つがあります。小細胞肺癌は進行が早く、治療を行ってもすぐに再発することが多く、治療法が非小細胞肺癌とは異なります。非小細胞肺癌には扁平上皮癌や腺癌などがあり、抗がん剤を行う場合にはその種類によって使用できる抗がん剤が異なります。
治療を行う前に、PET-CTや頭部MRIで肺以外の臓器に転移があるかどうか確認します。転移がない場合は手術や放射線、抗がん剤治療を単独で行ったり、組み合わせて治療を行います。転移がある場合は基本的に抗がん剤治療が主軸となり、転移した場所によって手術や放射線を組み合わせます。肺癌では他臓器に転移がない場合は根治(がんを完全に治す)が目指せますが、転移がある場合には根治を目指すことは難しく、癌による症状を和らげたり(症状緩和)、がんが進行するのを遅らせるのが治療の目的になります。
肺癌に関するQ&A
肺癌を早期発見するためには?
早期肺癌では症状がなく、検診でのレントゲン検査や喫煙歴があればCT検査などを行うことが一般的に推奨されています。
肺癌を予防するには?
とにかく禁煙が重要です。禁煙する意思があっても難しい場合には、禁煙外来への受診も推奨されています。
肺癌の一番いい治療法は?
早期肺癌の場合や手術や放射線治療など根治的な治療法が勧められます。手術や放射線治療に化学療法を組み合わせたり、化学療法も複数の選択肢があるなど、最良の治療法が複数ある場合もあります。
主治医と相談し、個々人にとっての最良の治療を決めていくことになります。
◎間質性肺炎
間質性肺炎の特徴
間質性肺炎は、肺の間質(肺胞と肺胞の間の組織)に炎症や線維化が起こる疾患です。正常な肺では酸素が肺胞から血液にスムーズに供給されますが、間質性肺炎になると間質が厚くなり、酸素の取り込みが困難になります。その結果、息切れや乾いた咳などの症状が現れ、進行すると日常生活にも支障をきたします。間質性肺炎にはさまざまな種類があり、特発性肺線維症(IPF)が最も一般的です。その他にも膠原病関連の間質性肺炎や薬剤性、環境因子によるものなど、原因は多岐にわたります。
間質性肺炎の疫学
特発性間質性肺炎(原因不明の間質性肺炎)の有病率は10万人対10人程度と言われていますが、診断されていない方や症状や画像の変化が軽い方も含めるともっと多くの患者さんがいると推定されています。特に膠原病の持病がある方では間質性肺炎を患うことも多く、肺の影を指摘された方は呼吸器内科への受診をお勧めします。
間質性肺炎の検査
間質性肺炎の診断には、高分解能CT(HRCT)が必須で、その他にも肺機能検査で肺活量を測定したり、血液検査で膠原病の合併がないか確認します。その他気管支鏡検査や、外科的肺切除で肺の組織を採取し、病理診断を行うことがあります。当院ではクライオ生検による肺組織の採取を行っています。
間質性肺炎の治療
間質性肺炎の治療は、病型や進行度によって異なります。自己免疫疾患に関連する間質性肺炎では、ステロイドや免疫抑制剤を使用します。肺の線維化が進行する場合には抗線維化薬を使用したり、酸素の数値が低下し、呼吸困難を自覚する場合には在宅酸素療法を行うこともあります。また、60歳以下で重症な方には肺移植が適応になることもあります。
間質性肺炎に関するQ&A
間質性肺炎は完治しますか?
病型によりますが、多くは根治を目指すというよりは、進行を遅らせることを目的として治療を行います。
ただし、早期発見と適切な治療により生活の質を維持できます。
どのような生活習慣が重要ですか?
禁煙を徹底し、感染予防(インフルエンザ・肺炎球菌ワクチン接種)を行い、リハビリや栄養療法などを続けることが大切です。
また自宅のカビや羽毛布団の使用などが原因になることもあり、環境の整備も重要です。
◎COPD(慢性閉塞性肺疾患)
COPDの特徴
COPD(慢性閉塞性肺疾患)は、主に喫煙や有害な空気汚染物質への長期暴露によって引き起こされる 進行性の肺疾患
です。気道の炎症や肺の破壊が進み、空気の流れが悪くなるため、呼吸がしにくくなります。主な症状としては、慢性的な咳(痰を伴うことが多い)、息切れ(特に運動時に悪化)、痰の増加、胸の圧迫感、疲れやすいなどがあります。
COPDは、急激に悪化する急性増悪(息苦しさが急に悪化し、治療が必要となる状態)が起こることがあり、重症化すると日常生活に大きな影響を及ぼします。
COPDの疫学
日本におけるCOPDの推定患者数は約530万人ですが、診断されているのは約5%程度です。COPDは初期症状が軽く、進行も緩やかなため、気づかないうちに進行しやすく、発見が遅れることが問題となっています。2022年のCOPDによる日本での死亡者数は約16,676人で、適切な治療や管理が必要で、何より早期診断が課題になっています。
COPDの検査
喫煙歴などの問診に加え、気道の狭窄音や気管の短縮や胸鎖乳突筋の肥厚などCOPDにみられる身体所見を医師が診察します。COPDが疑われる場合は肺機能検査で気流制限を確認したり、レントゲン検査やCT検査で肺気腫の有無を調べます。
COPDの治療
COPDの治療は、症状の改善と将来のリスクの予防です。禁煙が最も重要で、禁煙外来を利用して支援を行うことも出来ます。薬物療法としては、吸入薬が主体になりますが、COPDの方は心疾患や腎臓疾患などを合併することも多く、呼吸器以外にも全身の治療を行うことが重要です。呼吸器リハビリテーションや酸素の数値が低い場合には在宅酸素療法を行うこともあります。
COPDに関するQ&A
COPDは治りますか?
一度破壊された肺組織は元に戻りませんが、早期発見と適切な治療によって病気の進行を抑えることが可能です。
運動をしても大丈夫ですか?
運動は肺機能の維持に役立ちます。医師の指導のもと、無理のない範囲でウォーキングやストレッチを行いましょう。
どのような食生活が良いですか?
高タンパクでバランスの取れた食事を心掛けることが重要です。特に、低栄養状態・やせにならないように注意が必要です。
COPDと喘息はどう違いますか?
COPDは不可逆的(元に戻らない)な気流閉塞を特徴とし、喘息は可逆的(薬で改善できる)な気道狭窄が特徴です。
またCOPDは喫煙歴のある40歳以上の方に多く、喘息は全年代で喫煙によらず発症します。
◎睡眠時無呼吸症候群
睡眠時無呼吸症候群の特徴
睡眠時無呼吸症候群(SAS:Sleep Apnea Syndrome)は、睡眠中に呼吸が一時的に停止する疾患 です。この状態が繰り返されることで、睡眠の質が低下し、日中の強い眠気や集中力の低下を引き起こします。主な症状としては、いびき、睡眠中の無呼吸、日中の眠気、起床時の頭痛や日中の集中力の低下や記憶力の低下があります。睡眠時無呼吸症候群は、生活習慣病や心血管疾患のリスクを高めるため、適切な治療が必要です。
睡眠時無呼吸症候群の疫学
成人男性の約3~7%、女性の約2~5%にみられ、特にBMI(体格指数)が高い方に多くみられます。診断され、治療を適切に受けている方は少なく、治療によって劇的に改善することも多く、早めの専門医療機関の受診を推奨します。
睡眠時無呼吸症候群の検査
自宅で出来る簡易検査や医療機関で1泊2日で行う終夜ポリソムノグラフィー検査があります。
睡眠時無呼吸症候群の治療
肥満が原因の場合は減量が第一で、その他一般的な治療としては、CPAP療法(持続陽圧呼吸療法)、マウスピース治療、返答摘出や口蓋垂軟口蓋咽頭形成術などの手術療法があります。症状の重症度や原因によって、治療法を選択します。
睡眠時無呼吸症候群に関するQ&A
SASは治りますか?
生活習慣の改善により症状が軽くなることがありますが、根治が難しい場合はCPAP療法などで症状を管理します。
SASを放置するとどうなりますか?
高血圧や心疾患、脳卒中のリスクが上がり、日中の眠気による事故の危険性も増します。
CPAPを使い続ける必要がありますか?
CPAPは症状を抑える治療であり、使い続けることで効果を発揮します。
減量等で無呼吸が改善した場合には不要になることもあります。
◎主な呼吸器疾患一覧
呼吸器感染症
- 肺炎
- 膿胸
- 肺化膿症
- 気管支拡張症
- 気管支炎
- 結核
- 非結核性抗酸菌症
- 肺アスペルギルス症
呼吸器系腫瘍
- 原発性肺がん
- 縦隔 / 胸膜腫瘍
免疫・アレルギー疾患
- 気管支喘息
- 好酸球性肺炎
- 間質性肺炎(肺線維症)
- 過敏性肺炎
- サルコイドーシス
胸膜疾患
- 胸膜炎
- 気胸
その他
- 睡眠時無呼吸症候群